ウィーン応用美術大学(オーストリア)
池部 ヒロト


私はウィーン応用美術大学ファッションデザイン科に留学しました。オーストリアは公用語がドイツ語ということもあり、入学手続きや仮住民登録の際に戸惑うことも多かったのですが、基本的には英語で生活しています。学生用のドミトリーで生活しており、大学からは路面電車で20分程の場所にあります。オーストリアはハプスブルク家を中心とし形成された伝統的なロココ調の建築が多く建ち並んでおり、美しい街並みを築いています。また音楽の都と言われるだけあり、教会などオペラ座以外でもコンサートが頻繁に開かれており、休日に気軽にフィルハーモニーの演奏を鑑賞することができます。

クラスメイトの年齢は平均30歳程で、一度働いてから学び直すために大学に入学する人が多いようです。そのため技術的なレベルは高く、自分のブランドを立ち上げている人が何人もいます。基本的に一年生から四年生まで同じ実習室でコミュニケーションを頻繁に行うため、あまり年齢や学年は関係なく過ごすことができます。また著名なデザインナーであるモーデグラッセ教授を招いて行われる授業では、一年生から四年生まで平等に同じ課題に取り組みます。このような授業形態はとても良い刺激を受けました。

モーデグラッセ教授の授業に参加しつつ、基礎的なパターンやソーイングの授業、ポートフォリオのサポート授業に並行して参加しました。モーデグラッセ教授の授業は与えられたテーマをもとに自由度の高い制作をそれぞれが行なっており、充実した設備の中で非常にレベルの高い制作を行なっています。最終講評はウィーンのフィルハーモニーのオーケストラをバックにファッションショーを行うため、学生は高いモチベーションを持ち制作に取り組んでいます。卒業コレクションには有名なデザイナーの方々も来場されるとのことです。

卒業コレクションのプロジェクトでは1週間に一度教授や講師に見せミーティングを行います。既に講師レベルの縫製やパターン技術を持っている生徒も多いため、学生同士の意見交換も頻繁に行います。私にとってそのような学生は頼りになる存在でした。一つの作品に対してリサーチやプロセスにかける時間がとても長く、教師側もすぐにデザイン画を描くのではなく、そこに辿り着くまでの背景に重きを置いていました。それらの要求に応えるよう課題に取り組むことで、日本での制作よりも丁寧にプロセスを踏むことができました。

基礎的な授業は少人数で実施されるため一つ一つの作業をとても丁寧に指導していただきました。最初は英語の授業について行くので精一杯だったのですが、講師の方が付きっきりでサポートしてくれたおかげで今では授業に慣れることが出来ました。デザインミーティングでは多摩美術大学とは違い、学生1人に対して教授や講師陣全員が集まりプランを発表するという形でした。

今回のプロジェクトではアーティストのイヴクラインが作りだしたインターナショナルクラインブルー(IKB)をコレクションのメインカラーとして、自分で選んだ詩を出発点に服を制作して行くことをテーマとしました。私は折り紙の技法を応用したモジュール構造のテキスタイルを制作し、それを服のデザインに起こし発表しました。デザインミーティングでは折り紙を使った服の制作というのもこちらでは珍しかったためか、先生方からの評価は良く、この構造をどのようにして服の形に収めていくか丁寧に指導してくれました。教育方針が基本的に個別指導なため、大学院に近い印象を受けました。学生のやりたいことがはっきりしていればしているほど、それに合わせて機械や施設も紹介してくれます。この留学経験を生かし今後も制作を続けていきたいと思います。