2021年度短期交換留学生報告レポート3
テキスタイル専攻4年生から、短期交換留学のレポートが届きました。
松浦美宇(4年)
チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ
期間:2022年2月~2022年7月
こんにちは、ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アーツに留学中の松浦美宇です。COVID-19の影響で延期し、3年生2月の初めから始まったこの留学生活も、残り1ヶ月を残すところとなりました。5月か らはどんどんと日照時間が長くなり、6月も近づくと夜9時頃まで明るく、一年で最も日差しの美しい季節なのではないでしょうか。少々事件に巻き込まれながらも、日々楽しく新しい発見のあるロンドンでの学生生活を過ごしております。
私はTextile Design学科の2年生に在籍し刺繍コースを選択しました。しかし不運なことに、オリエンテーションの期間にCOVID-19の陽性反応結果が出てしまい、初めの13日間は学校へ通うことが出来ませんでした。どうやら私が入国した時には、キッチンをシェアしているフラットメイトが既に感染していた様です。症状は幸いにも比較的軽く、自主隔離と日本から持参の常備薬で凌ぐことが出来ました。
チェルシー・カレッジ・オブ・アーツは伝統的で美しい煉瓦造りの建物のように見えますが、所々改修が 重ねられ、モダン建築と融合しているところが興味深いと感じました。チェルシーに限らず、イギリスにはこのような様相の建築が沢山あるのですが、そのような建物内にある他学年の刺繍コースの部屋の一部を自分のスペースとして使用させていただきました。
ひとつ目の課題は”the costume for dancer”という、ダンスパフォーマンスに合うテキスタイルデザインを提案するというものでした。私は舞台衣装における身体の変容に注目し、人間を始めとする生物の皮膚の透明感やテクスチャーを刺繍で表現し、人間の体が生々しく変化するイメージでドローイングと刺繍での実験を重ねました。COVID-19から回復してから、 Berninaの刺繍ミシンの使い方の指導を受けました。 Berninaは基本的な左右往復のステッチと、プログラムされたいくつかのパターンのみが可能です。残念なことに休んでいた期間が長かったため刺繍の先生から指導は1度しか受けられませんでしたが、先生の助言に従い、embellisherという機械(ニードルパンチ)を使ったことで、より理想に近いものをつくることが出来ました。
1ヶ月の春休みを経たのち、2つ目の課題は”Design for Good”というものでした。テキスタイル業界における環境負荷や、労働環境の問題などの循環可能なアイディア提案や問題を解決することを目的とした課題です。私は廃棄される予定の布を工場からいただき、様々な技法で再利用することを基本アイディアとして制作をしました。
JUKIの工業用刺繍ミシンはひとつ目の課題で使ったBerninaよりも広い幅のスティッチを加えることが出来、表現の幅が広がりました。ヒートプレスでの色付けはポリエステルなどの合成繊維の多いブライダルファブリックの加工には適していました。
授業はコミュニケーションやディスカッションが重要視されており、アイディア出しの段階であっても、” あなたはこの課題でどの様な視点を持っているのか、どんなことに興味があるのか”についてディスカッションすることに2コマの時間を要し行ったことに驚愕しました。各自のリサーチを行う前から意見交換を行うことで自分には無い視点を知り、お互いの知識を共有することが出来ました。
課外では春休みを利用してイギリスとパリへ旅行し数多くの美術館を訪れました。日本と大きく違う点は世界各地から集められた美術品や文化財の常設コレクションの豊富さです。ロンドンには無料で観覧できる美術館や博物館が沢山ありました。日常の中で簡単に美術や世界の文化、自然に触れることが出来るということは素晴らしいと思う反面、世界各地から強奪してきたのだと考えると恐ろしいとも思いました。 また、あらゆる文化財がガラスのケースの中に陳列されている姿は、その時代の空気や生活感、人々の感情に溶け込んでいたものが切り取られている様に感じられ、純粋な美しさだけを感じられない違和感を覚えました。
その一方でイギリス音楽や劇場などのエンターテイメント文化は、人々の中で生きている様を感じ、素晴 らしいと思いました。地下鉄には多くの劇場やライブのポスターが貼られており、街中や地下鉄の中にまで演奏を許可されたスポットがあり、日々色々な人の演奏を聴くことができます。
世界的感染症の広まる中、予期せぬトラブルにも巻き込まれましたが、そんな時だからこそ現れる各国の文化の差を学ぶことが出来ました。様々な失敗や不運も交換留学ならではの有難い経験として、これからの行動に活かしていきたいと思います。